なぜ日本は「自殺大国」なのか?
6月1日に発表された警察庁のまとめによりますと、昨年の自殺者は32552人で、自殺の動機は、健康(46%)、経済・生活(24%)、家庭(9%)、勤務(6%)、男女(2%)問題の順でした。
今回は、自殺の現状と、その背後にある心の病気の深刻さについて、お話したいと思います。
日本は自殺大国
日本の自殺者数は今年で8年連続3万人超と報告されました。これは交通事故による死亡者数をも上回っています。
人口10万人あたりの自殺者で表される「自殺率」は驚くべきことに25.5。これはアメリカの2倍以上、世界でも、旧ソ連諸国と共にトップレベルの数字で、日本が自殺大国と言われる理由にもなっています。
高い自殺率の背景には、バブル崩壊後の日本社会が急激な変容があります。年功序列型の終身雇用の崩壊や成果主義から、勝ち組・負け組といった言葉で表されるストレスの強い社会への移行もあるのではないでしょうか。
旧ソ連諸国の高自殺率も共産主義が崩壊し、競争主義の市場社会へ移行していく中で、国民が不安定な社会から非常に大きなストレスを受けている為だと思われます。
自ら命を絶たれた人は、このようなストレス社会で、何らかの困難な問題に直面されていたと思います。
自殺された時点において、大部分の人は心の健康を損なって、心の病気、特に、うつ病の状態になっていると言われています。
うつ病になると生じやすい、死にたい気持ち
うつ病は最もありふれた心の病気の1つで、一生のうち、うつ病にかかる人は14人に1人とも言われています。うつ病になると、気分の落ち込みと共に以下のような症状が出現します。
・今まで楽しめていたことが楽しめなくなる
・何をするにも億劫になる
・疲れやすい
・イライラしやすい
・集中力が低下する
・自責の念が強くなる
・食欲、睡眠に変調が生じる
人生を楽しめなくなり、自分が価値のない存在で、周りの人に迷惑をかけているといった考えで頭がいっぱいになると、死ぬことが苦しみから逃れる為の解決策に見えやすくなります。
これは決して、健全な心で生みだされる考えではありません。うつ病では、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きに異常が生じるので、自殺願望を生み出してしまうのです。
自殺のリスク・ファクター
自殺のリスク・ファクターには、以下のようなものがあります。
・過去の自殺企図
過去に自殺を企てたことがある場合は、特に注意が必要です。自殺者の20%前後に自殺未遂歴があると言われています。
・年齢
年齢が高くなるほど、自殺のリスクが高くなります。
昨年は、60歳以上(33%)、50歳代(23%)、40歳代(15%)となっていて、40歳以上の中高年の方が、全自殺者の約7割となっています。
・男性
男性は女性の2倍以上、自殺のリスクがあります。昨年は自殺者の72%が男性でした。
・心の病気
心の病気の中では、うつ病が最も自殺につながりやすいのですが、統合失調症やアルコール依存症などの他の病気でも、自殺のリスクは高まります。
このような状態のときには、自殺の可能性がある事を決して忘れてはなりません。
・失業、退職
経済・生活上の大きな変化は、心に強いストレスとなり、うつ病のきっかけになりやすいです。
・健康状態が不良
悪性腫瘍、腎臓透析、肝硬変など、体の自由を制限し、苦痛を伴いやすい慢性疾患では、うつの状態になりやすいので、自殺のリスクも高まります。
・社会的に孤立
一人暮らしで、頼れる人がいないといった状況は、心の健康に良くない状態にもなります。
・配偶者との別れ
特に、配偶者が亡くなられた時は、心が大きなダメージを受け、うつの状態になりやすく、自殺のリスクにつながりがちです。
自殺の前兆
自殺には多くの場合、前兆があります。
以下のような自殺の前兆は、是非、見逃さないようにしたいものです。
・突然の様子の変化
ひどくイライラしていたり落ち込んでいたりした人が、急に回復したように見えるときは危険です。もう死のうと決心したことで、今まで苦しんでいた肩の荷を放り出して、リラックスした状態かもしれません。また、今まで、家族のことをあまり構わない人が急にやさしく気にかけるようになったり、身辺整理している様子がある時も、自殺の前兆が考えられます。
・死にたいと口にする
「生きていても仕方がない」「もう死にたい」などと自殺をほのめかす言葉は、決して、軽く見てはいけません。自殺者の半数近くが、死の前に、死にたいと口にしています。もしもうつ病なら、症状がかなり進んでいます。すぐに精神科(神経科)を受診すべきだと思います。
「自殺大国」といわれるほどうつ病患者の多い日本。高い自殺者数は社会の悲劇としか言いようがありません。
今の時点で自殺を防ぐには、多くの自殺の背景にある、うつ病を早期に発見し、治療を受けることが大切だと思います。
みなさまも、どうか、うつ病を軽く見ないで下さい。
ガイド:中嶋 泰憲氏より
精神科医。慶応大学卒業後、カリフォルニア大学留学。現在、精神病院勤務。

